天気がいいから凧をあげようと彼女が言って、外に出ると春でした。

彼女は勤め先である幼稚園で子どもたちに快適な遊びを提供するため
何個もカイトの試作品を用意していて、しかし肝心の凧糸は1セット
しかなく、となると1つ凧を飛ばしては糸をつけ替え、という作業を
行わねばならず、苦労して凧糸をつけたサンプルが思うように風を
掴まなかったときのあの徒労感はちょっと「あー残念だったね」では
済まないので、僕たちは毎回の出走を本気で行ったのでした。

凧あげ会場となったのは僕の住むアパートの向かいの町民グランドで、
このグランドは休日に解放されているので、小学生が隅っこのほうで
サッカーをしていたり親子連れが目的もなく走っていたりして、毎度
そこかしこがちょっとした運動会っぽいです。

そんな運動会メンバーの中で、彼女と僕の本気凧あげに興味を持った
らしい4歳くらいの女の子(お父さんと一緒に散歩の途中)が、
凧糸の端を掴んで全力疾走する彼女を追いかけて、なぜか、笑う笑う。
何がそんなに面白いのか分からないけど、女の子は走りながら本当に
楽しそうでした。

3つ目の凧は幸い勢いよくあがって、女の子から逃げるように走る
彼女も何だかだんだん楽しくなってきたようで、いつしか走りながら
声を上げて笑っていました。凧を掲げて彼女のダッシュと同時に放す
役割だった僕も、その光景がなんだかとても滑稽に見えて、自分でも
よく分からないけど大いに笑いました。

子どもと一緒に凧をあげてすごい笑ってる彼女はやっぱりそういう
子どもと関わりのある職場で働く適性があるんだなと思うと、それが
とても嬉しく思えて、そんな光景を眺めながら爆笑する春の午後、
こんな幸せな休日が他にあるかな。今日みたいな休日を過ごすために
僕は、僕らは、働くんだろうな。
なんて思いながら、今はまんじりと、仕事の明日を待っています。