見知らぬ世界


先週末に友人から依頼され、祇園で1日アルバイトをしました。
友人曰く「書道の品評会のバイト」とのことだったので、受付とか設営とか
片付けとかその辺かな、と勝手に思っていたのですが、「品評会」自体が僕の
思っていたものと違っていて、いろいろ面白い体験をすることが出来ました。

まず会場の緊張感がやばい。流派のトップ、書道界の重鎮的な人々が、全国の
書道家さんが持ってきた作品を、作者の目の前でガンガンこき下ろすのです。
こき下ろされる方も近所の書道の先生レベルだと聞いて、僕はジャンプ
マンガの強さのインフレを思い出します。ま…まだ上がいるのか…!

厳しい批評に耐えた作品だけが、○○展やら○○賞などの賞レースに出展され
るらしく、会場の雰囲気は非常に張り詰めていました。品評会ってもっとこう、
「ここが良いですね」とか「こちらもなかなか」とか褒め合う感じの、優雅で
和やかなものだと思っていたので、背中をパンと叩かれた気分になりました。

僕の仕事は、持ち寄られた作品を重鎮の人の前に広げる、というものでした。
会場は部屋ごとに区画分けされ、1区画に2人の審査員(重鎮)と、4、5名の
アルバイトが割り当てられます。アルバイトたちは持ち寄られた作品を壁に
張ったり、手で広げて持ったりして、作品の評価がより迅速に行われるように
動き回ります。この際、偉い審査員さまの前で失礼のないよう、また、大事な
作品を傷つけぬよう、細心の注意を払わねばなりません。

そもそもこういった仕事は、その流派の師匠を持つ大学の書道部に回される
そうで、僕以外のアルバイトは皆書道部員、顔見知りも多数のようでした。
書道など小学生の頃少し習ってすぐ辞めた僕ですので、そして大学に入って
久しく礼儀やらなんやらから遠ざかっていた僕ですので、畑が違うにもほどが
ありました。アウェイ。右も左も分かりません。

重鎮 「今日が初めて?君、遅いなー。頑張って覚えてよ」
僕  「すみません」

そんな困難な状況でも、なんだかんだで仕事自体は結構楽しくこなせました。
同じ区画の3人の女の子はとても気さくで優しかったし、審査員の人たちの
作品に対する批評が面白かった。僕には全部が上手く見えるけれど、やはり
素人には分からない審査のポイントみたいなものがあるようで、審査員同士
意見が一致して作品がバッサバッサと切られていく様子は、ある種の痛快さを
伴っていました。熟達された「審美」の眼差しはとても熱かった。

あと、重鎮の中にもかなり若い人が居て、その人よりもだいぶ年上だろうと
思われるお爺さんに敬語を使われていたのも驚きました。芸術の世界はやはり
年功序列じゃなくて、実力主義なのかな。でも、「偉い人は偉い」というのは
かなり明確で、先輩後輩、師匠と弟子のタテ社会から離れていた僕の目には
その様子がとても新鮮に映りました。

バイト代は日払いでした。拘束5時間、実質労働4時間くらいで、一葉さんが
貰えたのでかなり割りは良かったです。優しそうな審査員の人がすごい辛辣な
言葉を放ったり、一緒の区画のちょうパンクな女の子(全く書道っぽくなくて
最初どうしようかと思った)が実際話してみるとものすごくいい子(多分彼女が
居なかったらアドレス聞くか何かしていた)だったり。「上には上がいる」。
「人は見かけによらない」。あと「僕の知っている世界はものすごく狭い」。

3つの教訓と5千円札を握りしめ、僕は祇園の地を後にしました。
帰りに王将とミスドに寄って、エバンゲリオン破を見ました。最後に「やっぱ
エバンゲリオンやべー」という教訓が加わり、長い1日が終わりました。