オートロックのキーを取り出すのが面倒なので、マンションから人が出て
来た時に丁度開いたドアに滑り込もうとしたのですが、敷居をまたごうと
した瞬間にドアが閉まり出し、結局中には入れず終いでした。

「あ、閉まる」「でもまだいける」「やっぱいけない」「でもドア閉まるの
結構遅いぞ、大丈夫だろ」「いやでも、もう大分閉まってるし、駄目だわ」

以上がドアを目前にして僕の頭の中を駆け巡った思考なのですけれども、
この思考の流れに合わせて一緒に足も動かしたため、僕はドアの前で変な
ステップを踏む人になってしまったのです。

扉に滑り込むか否かにさえ、一瞬のうちにこれだけ考えが二転三転する
自らの優柔不断さと、咄嗟の判断が出来なさ過ぎて、おそらく自分は有事の
際に真っ先に死ぬ事になるだろう、という確信とで、僕はとても悲しく
なりました。日常の些細な事象の中にこそ、本当の試練は潜んでいるのだ。